【記事】自分でも始められるかも?と思ってもらいたい - インタビュー 凡竜(漫画家 - 乙女の地球の走りかた)

2022年12月に芳文社の漫画アプリ「COMIC FUZ」でアドベンチャーレース漫画「乙女の地球の走りかた」の連載がスタートしました!

連載が始まったのは嬉しい反面、なぜアドベンチャーレースを題材に!?と思ったのも正直なところ。

どういった経緯でアドベンチャーレースの漫画を連載するに至ったのか、今後ストーリーはどういった展開をみせるのかなど、作者である凡竜先生、そして担当の砂田さんのおふたりにインタビューを行いました。

連載に対する想いや凡竜先生の人柄など、記事を通して感じていただければ幸いです。

<聞き手:まつもと(ゆるやま!)、撮影 / アシスタント:しょーとかっと△>

今一番やりたかったのがアドベンチャーレースだった

おそらく、これを読んでいる人が一番疑問に思っていることから聞かせてください(笑)。なぜアドベンチャーレースの漫画を描くことになったんですか?

COMIC FUZ 砂田

ゆるキャン△*1のアンソロジーコミックを凡竜先生に寄稿いただいたのが、お付き合いの始まりでした。

その後、オリジナル漫画の連載を一緒にやりませんか?という話になったんですが、そこでアイデアを出し合って、出てきたテーマのうちのひとつがアドベンチャーレースだったんです。

凡竜先生

企画が立ち上がった当初、実はアドベンチャーレースについて全く詳しくなかったんです。

ただせっかく連載させてもらえるなら、興味があることをやってみたかった。連載を通して自分自身がその題材に詳しくなりたいという想いもあり、それだったら今一番やりたいアドベンチャーレースにしよう、ということになりました。それがだいたい2020年の3月くらいですね。

構想から連載開始まで2年半以上かかっているんですね。連載の準備にそんなにかかるとは思っていませんでした。

凡竜先生

僕自身トレイルランニングはやったことはあったんですが、アドベンチャーレースはイーストウインド*2の田中正人さん、田中陽希さんの活躍をテレビを通して知っていただけで、国内でどういうレースがあるかとか、そういうことも当時は知りませんでした。

なので、漫画のテーマとして使えたら面白いだろうなという漠然としたイメージはあったんですが、それを形にしていく必要があったんです。

もともとやっていたトレイルランニングの技術だけでは地図関連のスキルがまったく足りていなかったので、アドベンチャーディバズ*3というアウトドアツアー会社のポーリンさんという方に教えてもらったり、奥多摩で練習したりしながら、見識を深めていった感じです。ゆるやまさんの動画もすごい参考にしましたよ(笑)

YouTubeみていただいてる!ありがとうございます!

お役に立てているのなら嬉しい限りです(笑)アドベンチャーレース漫画の連載企画が立ち上がったとき、反対意見とかはありませんでした?正直いえば一般受けするかは分からない題材だとも思うのですが。

COMIC FUZ 砂田

意外に思われるかも知れませんが、実は最初の編集会議で好感触だったんですよ。

意見としては青年マンガ的なストーリーで、もともとアドベンチャーレースに参加している選手を主人公にしたら?というものもありました。ただ本格的な内容からスタートしてしまうと、トレッキング、バイクなどのスキルの知識や、前提となる体力のイメージが一般的な感覚とは離れてしまうので、読者に身近に感じてもらえずに読まれないのではないか?という心配があったんです。

なので、キャラクターが1からレースについて学んで、成長とともにレースに参加できるようになっていくほうがいいのかなと。その結果、今のストーリーの骨子ができました。フラッと奥多摩にハイキングに来た主人公が偶然キーとなるキャラクターに出会い、レースに参加することになるという。

超人レースというイメージばかりがひとり歩きしてしまっていて、一般人とは全然関係ない世界の話みたいになっているところはあります。なのでそういう切り口はありがたいですね。

凡竜先生

自分でも始められるかも?って思ってもらうのは大事ですよね。国内の1DAYレースは一度出てしまえば、実際にはハードルがそこまで高くはないと感じています。そこが伝わってくれれば、もっと参加者の裾野が広がるのではないかなと。みんなのアドベンチャーレースに対するハードルをちょっとずつでも壊していけたらいいなと考えています。

ただそれでも、エクストリームシリーズ*4が初戦だと衝撃が大きすぎて一般人は引いちゃうから、東伊豆アドベンチャーラリー*5からストーリーを始めた経緯はありますね(笑)

COMIC FUZ 砂田

かけっこくらいから始めて、徐々にレースに向かっていくというストーリー展開も可能性としてはあったのですが、キーとなる要素はできるだけ早くみせるほうがいいという話になりました。なのでレースで重要かつ手軽に始めやすい内容として、1話で地図読みの解説を入れています。そして3話からアドベンチャーラリーが始まるという展開です。

担当としては商業漫画として成立させつつ、登場人物の成長も描きたいということで今のバランスがよいと判断しています。

第1話、地図読み解説のシーン

チームみんなで同じ体験を共有できるのが大きな魅力

取材だけでなく、実際にレースに参加されたことはあるんですか?

凡竜先生

今まで東伊豆アドベンチャーラリーやエクストリームシリーズ那珂川大会、伊豆大島ジオパークロゲイニング*6などに参加しています。今のところは1日完結のレース*7がメインですね。大半のレースは砂田さんとチームを組んで参加しています。

COMIC FUZ 砂田

僕はそういったレースに関しては素人中の素人なので、凡竜先生についていくのはかなりギリギリです(笑)特に一緒に参加したエクストリームシリーズ那珂川大会のナイトセクション*8は本当に大変でしたね。

凡竜先生

夜のナビゲーションは漫画のネタとしても映えそうなので、描く上での体験としてもぜひ那珂川大会には出たいと思ってました。

夜は数メートル先の尾根も見えないから地形把握が大変なんですが、ナイト対策でライトの使い方とか、地図読みをかなりしっかり教えてもらっていたこともあって、思ったより善戦できたと思っています。1ヶ所どうしてもわからなくて、そこで迷ってタイムオーバーにはなってしまったんですけど、すごく楽しかったですね。

凡竜先生が実際に使っている装備。シューズはasics trabuco、ザックはSalomon。
友人にプレゼントされた右上のドライバッグが最近お気に入りとか。年季入ってます。

もともとトレイルランニングをされてたとのことですが、アドベンチャーレースに出てみて感じたことはありますか?

凡竜先生

トレイルランニングについては、父がめちゃくちゃに走れる人なのでよく練習で連れ回されていたのがベースになっています。それがもうスパルタで、吐きながらついていく感じで(笑)。あと自転車についてもロードレースをやっていたので、まぁまぁ走ることはできたんです。

ただカヤックはやったことがなくて、那珂川大会当日の朝、講習会で初めて乗ってそのままレースに出た感じです。ロープワークなどが必要なレースもあると思うんですが、そのあたりはまだ全然ですね。少しずつできることの幅を広げていきたいと思っています。アドベンチャーレースはマルチなスキルが求められるので、そこが楽しさのひとつだと思います。

他のエクストリームなアウトドアレースに比べると、チームメイトと同じ体験をして、レース後に酒の肴にできるというのも大きいですね。始めはトレイルランニングのように、もっと自分自身と向かい合う要素が大きいかなと思ってたんですけど。

ひとりで走って、キレイな景色をみてひとりですごい!ってなるのも楽しいですが、アドベンチャーレースだとチームみんなで同じ体験ができるというのが全然違っていて、そこが魅力のひとつになっています。

実際のレースの体験が連載に活きている部分などはありますか?

凡竜先生

ストーリーやキャラクターの心情などを描く上ではもちろんですが、それ以外にも砂田さんとふたりで参加したレースの体験を元に調整を入れたところもあります。

第5話(2023/3/10公開)のカラーのページなんですけど、砂田さんと二人で実際に迷った内容が元ネタになっていて、そこはそのときの心情に合わせて色調整してもらっていますね。

COMIC FUZ 砂田

参加したときの印象で、自分がどこにいるんだろうとか、制限時間に追われている、ツラい、しんどいとかそういう気持ちを、暗めのカラーに反映しています。ぜひ探してみてください。

作業ツールはiPadをメインに、左手デバイス用にiPhoneをリンクして使っているそうです。

ちょっとミスマッチな感じが好き

ファッション、特にスニーカーがお好きだと伺いました。それとアウトドアの間に関係はあったりしますか?

凡竜先生

ファッションではアウトドアの要素をずっと取り入れています。山に行ったりキャンプをしたりするのはもともと好きだったので、その流れですね。

今日もトレランシューズを履いてますよ。ここ数年は普段のファッションにトレランシューズを合わせるのが流行ったりもしていますね。日常履きでトレランシューズを買った友人をみつけては、ここぞとばかりにレースに誘ったりもしています(笑)

山用のギア全般をファッションに取り入れようとする潮流があったりもするんですか?

凡竜先生

洋服は時代によって流行り廃りはあるんですが、アウトドアのウェアはそれとは別軸に、完全に機能性のアイテムとしてずっと存在しているんです。そういったギアはもともと消耗品的な側面があるんですけど、ファッションをやっている人であれば、自分のワードローブとギアをミックスしていくのはある意味で当然の流れかなと思います。

実際に僕の知人もトレランザックをTシャツの上に羽織ったりして、それをおしゃれに着こなして堂々と街中を歩いたりとか。ファッションを分かってる人たちならではのムーブメント的なものですね。

漫画を読んでくれている人の中ではごく一部かも知れないけど、そういう人たちも反応してくれたら嬉しいなとは思っています。

シューズで好きなブランドはありますか?

凡竜先生

僕自身 asicsのファンで、trabucoシリーズとか大好きです。LA SPORTIVAやSalomonもよく履いています。特に最近はSalomonがファッションのほうで注目を浴びていますね。LA SPORTIVAだとAKASHAとかをよく履いています。

カラーはイエローとかオレンジとか鮮やかな色も多いんですが、そういうのも夏のファッションに合わせたり、それ以外にも復刻シリーズはカラーリングが攻めていることも多かったりして、普段履きと山用を兼ねて履いていたりもします。

いつも旅行のついでに山を走ったりもしていて、靴が好きなので旅先には必ず2〜3足は持ってくんですが、その中にトレランシューズも入れています。機能としても、デザインとしても気に入ってますね。

インタビュー当日はasics trabuco MAXでコーディネート。自宅には数百(!)のスニーカーコレクションがあるそうです。

山用のギアを合わせるとき、何かこだわりはありますか?

凡竜先生

トレランシューズに合わせる服は、あえて「外す」ことも多いです。イギリスにツイードレースというのがあって、ツイードのジャケットを着て、短パンを履いてBROMPTONっていう小さい自転車で走るレースがあるんですよ。そのちょっとミスマッチな感じというかそういうのが好きで。

洋服とかファッションは人と違うことをしてナンボとも思っているので、そこに自分のバックボーンとしてのギアを混ぜていくというスタイルにこだわっています。

漫画の中ではロゴは出していないけど、主人公のチームはSalomonで、ライバルチームはasicsだったりと、実はいろいろと履いてもらっていますよ。自分の中でこのキャラクターだったらこの靴だよなみたいな、性格とかと合わせて必ず靴についての情報を設定に入れています。

凡竜先生が発行している同人誌の中でもこだわりのコーディネートがたくさん見られます

レースを知っている人にも知らない人にも楽しんでもらえる作品にしたい

アドベンチャーレースという題材の中で、特に推していきたいことはなんですか?

凡竜先生

レースではチームでチェックポイントを探すわけなんですが、いろいろな困難を全員で乗り越えてポイントにたどり着くまでの過程は、いつまでもいい思い出になると思うんです。あの藪ひどかったねとか、こんなところ歩かせるのか!とか(笑)

そういったことを乗り越えた経験を共有できるということと、もうひとつはコースクリエーターの想いというか。何を考えてそのルートを通らせたのかとか、どういうことをさせたいとか。地元のクイズがあったり、名所を巡らせてみたり、そこに想いを馳せてみるのも物語っぽくていいですよね。

漫画の登場人物、特にメインの3人について、今語れる範囲でいいので教えてください。

凡竜先生

アドベンチャーレースで必要なスキルを3人に振り分けて、キャラクターに持たせています。

アユミはまず圧倒的な好奇心があって、そこから全体の状況や周りをみる力や、知恵の部分。ユカは体力や負けず嫌いな部分。レースをやりきる、完遂する力ですね。マキはちょっとオタクな部分。レースに関する知識とか、地図読みなどの体力以外の部分で活躍してほしいなと。3人がどうしてそういう性格になったのかとか、今後バックボーンにも触れていきたいと思っています。

メインキャラ3人。左からマキ、アユミ、ユカ

オリジナル設定として、JAS=ジャパン・アドベンチャー・シリーズというのが作中に登場します。それは今後ストーリーの中でどういう意味を持ちますか?

凡竜先生

トレイルランニングだと、いろいろなレースで結果を出してポイントを獲得しないと出られないものもあるんです。

現状ではそれはトレランレースの世界だけですけど、それをもっとアウトドアレース全体に広げて、各ジャンル共通のポイントによって上位のレースに出られる形にすることで、目指すところがあるというのを示したかったんです。そういう理由でオリジナル設定のJAS=ジャパン・アドベンチャー・シリーズというものを作りました。

COMIC FUZ 砂田

野球漫画でいうところの「甲子園を目指そう!」みたいな、テーマ設定の意味で重要な位置づけとなっていきます。アドベンチャーレースは予備知識がない読者にとっては分かりにくいものではあるので、まずは明確な目標設定が欲しかったんです。

アドベンチャーレース以外の周辺スポーツ、ロゲイニングだったり、オリエンテーリングだったりトレランレースだったりと「アウトドアレース全体をまとめたシリーズ」にすることで、ストーリー上でいろいろな競技に触れたい、という狙いもあります。

メインの3人の得意なスキルが違うから、それぞれ活躍できそうですね。それ以外にもこの漫画のオススメポイント、みどころみたいなものはありますか?

凡竜先生

キャラクターたちは山近いところに住んでるわけではないので、同じように都市部に住む人たちにも、山で地図を読んで走る楽しさみたいなものを届けられたらと思っています。都会から山に遊びに行くような機会が増えてくれたらいいなと。もともと凡竜を知っていただいていたファンの皆さんには、大会に出るまではいかなくとも、トレランシューズを買って、ぜひ山に遊びに行ってほしい。

反対にアドベンチャーレースを知ってる皆さんには、キャラクターのやりとりだったり、こういうことあるよね!って自分の経験と照らし合わせてもらったりとか。モデルになっているレースであれば景色とかが一致したりもすると思うので、レースの雰囲気を思い出すきっかけにしてもらえたら嬉しいですね。

最後に、読者の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

COMIC FUZ 砂田

アドベンチャーレースを知っている人も知らない人も楽しんでもらえる作品を目指します。

あとは漫画の題材にするからには、取材を通して正確に描写したいですね。細かな服装や、ギアの使い方なんかもちゃんと分かってるな、みたいな(笑)。知っている人にしか伝わらないようなところも描写として入れていけたらと思っています。

取材カロリーの高い題材ではあるので、凡竜さんをサポートする形で頑張っていきたいです。多くの人に読んでもらえる作品になったらいいなと思います。

凡竜先生

これからレースも始まってどんどん面白くなっていくので、ぜひ皆さん読んでください!

凡竜先生&担当砂田さん、長時間のインタビューありがとうございました!

profile - 凡竜

初連載作品『乙女の地球の走りかた』を毎週金曜日に更新中。

連載の傍ら、サークル「スーパーブルー」にて、ファッションやスニーカーにまつわる同人誌を制作している。

凡竜 Twitter アカウント
乙女の地球の走りかた - COMIC FUZ

*1 芳文社 COMIC FUZ で人気の連載漫画。キャンプを楽しむ少女たちの日常が描かれています。
*2 アドベンチャーレースの国内トップチーム。海外の500kmを超えるレースに年間何度も出場し、好成績も収めています。現リーダーの田中陽希は日本全国の百名山を自分の足のみで踏破するNHK番組「グレートトラバース」シリーズで一世を風靡しました。登山やってる人なら知っているかも。
*3 https://www.adventure-divas.com
*4 Extremo社が運営する国内のアドベンチャーレースシリーズ。http://www.a-extremo.com/event/extreme/
*5 Extremo社が運営する初心者向けのイベント。例年、東伊豆の稲取高原で行われています。
*6 アドベンチャーディバズが運営する伊豆大島を舞台にしたロゲイニング大会。https://www.izuoshima-rogaining.com
*7 国内では2日前後が最長のレースですが、海外では1週間を超えるレースも多数あります。ひぇー
*8 エクストリームシリーズで唯一ナイトセクションが用意されています。真っ暗な藪を歩けます。

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